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コラム記事

高次脳機能障害における自賠責保険の後遺障害等級認定のポイント

2014.12.31 高次脳機能障害頭部

審査システム

現行の自賠責保険では、以下の場合が高次脳機能障害の審査対象とされています。

① 後遺障害診断書において高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合
② ①に該当しないケースではあるが、以下に該当する場合

・初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害等の診断がなされている場合
・初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害に伴いやすい傷害が認められている場合
・経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が指摘されている場合
・初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過診断書において一定程度以上の意識障害が継続している場合
・その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる場合

審査対象とされた場合、自賠責調査事務所では特定事案として、高次脳機能障害審査会(高次脳機能障害専門部会)において慎重に判断される運用となっています。高次脳機能障害専門部会は、審査の客観性・専門性を担保するため、脳神経外科医、弁護士等、外部の専門家で構成されています。

後遺障害等級認定のポイント

意識障害の発生及び推移

まず、意識障害の有無とその程度・長さがポイントになります。この意識障害については、JCS(Japan Coma Scale、ジャパン・コーマ・スケール)やGCS(Glasgow Coma Scale、グラスゴー・コーマ・スケール)による意識障害の深度分類(意識レベル)が最も参考にされます。PTA(Post Traumatic Amnesia、外傷後健忘)状態の程度も参考にされることはありますが、ポイントはJCSかGCSです。これに加え、事故状況も参考にされます。そのため、基本資料のほか救急搬送記録もあると極めて有用です。

この意識障害の有無とその程度・長さを判断する資料として、医師に「頭部外傷後の意識障害についての所見」という診断書を作成していただくことになります。

画像所見

次に、画像資料上で外傷後ほぼ3ヶ月以内に完成するびまん性脳損傷(脳室拡大・脳萎縮)の所見が認められるかがポイントになります。びまん性脳損傷とは、脳のあちらこちらにいろいろな出血巣があり、さらに脳梁に傷害がある例です。

脳の器質的損傷(脳の組織そのものに生じた損傷)の判断にあたっては、CT及びMRIが有用な資料です。ただし、これらの資料も適切な時期(急性期から亜急性期、受傷後とにかく早期)に撮影されたものであることが重要です。

また、びまん性軸索損傷のように広範かつ微細な脳損傷の場合には、CTでは十分な情報を得難いため、受傷後早期のMRIがより有用です。特に、脳軸索損傷は受傷後1週間程度で所見が分かりにくくなってしまうという特徴がありますので、受傷後初期のMRI撮影で拡散強調画像(DWI)や磁化率強調画像(SWI)を撮影されていることが重要です。

なお、拡散テンソル画像(DTI)、fmri、MRスペクトロスコピー、PETについては、これらの検査のみでは脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷との因果関係、または障害の程度を確定的に示すことはできないと考えられていますが、MRIの補足資料としては有用であるとされています。

等級の判定方法

以上2点が、高次脳機能障害としての評価の可否の問題として判定されます(いわば入口の問題)。そのうえで、「神経系統の障害に関する医学的意見」、「日常生活状況報告書」、その他資料(学生の方については「学校生活の状況報告」も資料となります)によって、高次脳機能障害としての等級が判定されます(いわば中身の問題、高次脳機能障害の重症度)。「神経系統の障害に関する医学的意見」及び「日常生活状況報告書」は、被害者の方のご年齢によって用意すべき書式が異なります。

「神経系統の障害に関する医学的意見」は医師が、「日常生活状況報告書」はご家族、近親者、介護の方などにご作成いただく資料ですが、医師が被害者の方の生活状況をすべて見ることは事実上不可能です。そのため、医師は診察における限られた時間や神経心理学的検査の結果などを踏まえて「神経系統の障害に関する医学的意見」を作成するのですが、診察や検査においては特徴的な症状があらわれてこないこともありえます。
そのため、せっかくご作成いただいた資料が不十分な内容となってしまう恐れもあります。そこで、医師に「神経系統の障害に関する医学的意見」をご作成いただく際には、ご家族の方々にも診察に付き添っていただき、医師と十分なコミュニケーションをとり、被害者の方の日常生活の状況を事細かに伝えていただくことが有用です。

なお、神経心理学的検査は症状固定時期に行われる必要があります。病院によっては検査設備が整っていない場合もありますので、神経心理学的検査を受けたい旨病院に伝えて通院中の病院に確認し、設備がない場合は検査を受けられる施設を紹介してもらうなどの対応が必要です。

その他

・因果関係の判定
頭部外傷があっても、脳の器質的損傷(脳の組織そのものに生じた損傷)がはっきりせず、その後通常の生活に戻り、事故から数ヶ月を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発生し、これが次第に悪化したようなケースでは、事故とは無関係の障害が発生した可能性が高いと判断される傾向にあります。

また、事故以前に脳疾患等の既往症がある場合、後遺障害等級認定が困難になります。事故以前と事故後における継時的な脳のMRI画像や、事故以前と事故後における症状の推移を比較できるよう、診察・検査を受けていき、立証資料を取りそろえていく必要があります。

・小児や高齢者の方の場合
小児の方は、その成長・発達に伴い(入園、入学等)、社会的適応に問題があることが分かってくることがあります。その時点に至って、はじめて小児に有利な後遺障害等級認定が可能となる場合もあります。

高齢者の方は、症状固定後の症状悪化がみられる場合、自賠責保険では加齢による認知障害の進行を疑います。そのため、認知・行動面の症状を継続的に診療している医師の診断書が必要です。そして、内容は症状悪化の原因が脳外傷にあり、脳外傷以外の疾患や加齢に伴うその他の原因が主因ではないということを証明できる資料を取りそろえる必要があります。

高次脳機能障害の後遺障害等級

等級認定基準
1級1号(別表第一)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号(別表第一)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号(別表第二)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号(別表第二)神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号(別表第二)神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号(別表第二)神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

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